好きなものだけ食べるでは危ない!

ーNHKスペシャル「好きなものだけ食べたい」に見る現代の食卓とその影響ー 

NHKスペシャル「好きなものだけ食べたい~小さな食卓の大きな変化~」(50分 2006年6月放映)を、家族4人で見ました。

県の食育のモデル校として食育の実践を積み上げたきた千葉銚子市立本城小学校では、家庭の食事について大規模な実態調査を行いました。
何と、全校児童の食事を朝昼晩1週間にわたって、写真に撮ってもらったのです。その数3,500枚。

このありのままの食卓を写真で記録したデータから、子どもたちの食事が驚くべき変容を遂げているのが明らかとなりました。

◆1 家庭の食卓三つの型

まず NHKスペシャル「好きなものだけ食べたい」の導入部分で、家庭の食卓の3つの型(写真入り)が紹介されていました。

■切り札型

「うどんと野菜ジュース」「ラーメンと納豆」など、健康によいと思われる食品が、切り札として1品添えてあるのが特徴。サプリメントを添えてあったケースもありました。
こうした食事は、料理に手をかけたくない親が、栄養を補う気休めにしているためと分析されていました。

私は、忙しくて料理になかなか手をかけられない親が、「それでも子どもに少しでも栄養をとらせたい」という愛を感じました。東京にいる大学生の娘に、ニンジンジュースやキューサイの青汁を送ったことを思い出します。

■バラバラ食型

家族がいっしょに食卓を囲んでいても、それぞれが好きなものを食べている食事です。
ある家庭の夕食として、「父親のおかずは煮物ですが、母親はサラダとワカメスープ、そして子どもは大好きなサクランボとトウモロコシだけです」と紹介されていました。

毎日の食事は楽しみでもあり、食事を楽しむためにある程度の好みに応じるのは大切だと思います。しかし、食事の最大の目的は栄養の摂取でしょうから、それぞれが好きなものを食べているバラバラ食自体よりも、それぞれの食事の中身が栄養的に大丈夫かどうかが問題だと思います。

■好きなものだけ型

タイトルの通り、子どもの好きなものだけ食べさせる食事です。
ある子どもの朝食例として、「大好きなプチケーキとみかん」「冷凍食品のたこ焼きだけ」「煎餅とチョコパイといった大好物のお菓子」……が紹介されていました。

大好きなお菓子が食事では、食事を楽しむことだけを考えていて、栄養を摂取するという最重要な目的をおざなりになっています。これでは、心身に悪影響が出てくると思いました。
しかも、子どもの好きなものといっても、今の時点での好きなものであって、広がりがありません。子どもがもっと好きになる可能性のある食事がたくさんあるはずです。それを今の時点で好きなものに限定することは、将来の豊かな食の楽しみを奪っていると、私は思います。

◆2 増えている好きなものだけ型

この好きなものだけ型が年々増えているといいます。

ナレーション「バランスのとれた食事でなく、好きなものだけでもいいから、何とか子どもに食べてもらう。そんな親の姿が写真から浮かび上がってきます。」

私と妻と子ども2人の家族4人で見たのですが、実際の写真をふんだんに使ったこの導入段階で、番組に一気に引きつけられてしまいました。

アキコ「えー、あんなメニューじゃ~アキコ、がまんできない。」
妻「これはすごいわね。」
私「う~ん、そうだなあ。」

調査を行ったアサツーデイ・ケイのIさんは、次のように親の気持ちを話していました。

「子どもさんと食卓で嫌いなものを食べさせるために、いろいろやりとりをするのは大変ストレスになる。そんなことをさせて、泣かれてまで~というよりは、好きなものを与えてしまおう。そこでケンカになるよりも、好きなものにしてしまおう。」

この文章を、栄養のある食べ物を「勉強」になぞらえて、私が書き換えてみます。

▶︎子どもに嫌いな国語や算数の勉強(宿題)をさせるのは、大変なストレスになる。そんなことをさせて、泣かれてまで〜というよりは、好きな勉強ーたとえばお絵描き(図工)やサッカー(体育)ーなどをさせよう。そこでケンカになるよりも、好きな勉強にしてしまおう。

子どもとケンカしたくないという気持ちはわかりますが、好きな勉強だけというのは、問題だと思いませんか。国語や算数の大切さを考えると、何とか工夫して国語や算数も学習させたいと思いませんか。
しかも、健康な身体はバランスの取れた栄養の摂取によってできるわけですから、食事の問題は国語や算数よりも大切だとも言えないでしょうか。

◆3 好きなものだけ型の食事で悲鳴をあげる子どもの体

こんな好きなものだけという食事に、子どもたちの体の方は悲鳴をあげているといいます。(当然ですね!)

この後、様々な体の悲鳴の具体的な例が紹介されていました。

それは生活習慣病をはじめ様々なマイナスの影響です。紹介されていた事例を、以下要点だけ挙げてみます。

①糖尿病……この20年で2.7倍(子ども)。甘いもの、脂肪の取りすぎが原因の一つ。

②脳梗塞や心筋梗塞につながる「高脂血症」……100人中10人の子どもにその傾向が見られる。

③骨粗鬆症……骨を成長させるべき時にきちんと栄養をとらないと、将来がこの可能性が高くなる。

④肥満とやせの増加……朝食をきちんととらないと、代謝が低下し、栄養があまって脂肪として蓄積され、肥満になる。
ある学者は、実験データを示して「若いうちから老化が進んでしまう。」と危険性を指摘していました。

⑤便秘……ある自治体の調査では、50%を超える子どもが毎日は排便がない。

⑥体力の低下……50メートル走、ソフトボール投げなど記録が低下している。

⑦授業中の集中力の低下……本城小の校長が力説していましたが、これは、私も容易に予想が付きます。まともな朝食を食べていない子どもは、そうでない子どもに比べて大変なハンデの中で学習することのなるのです。

NHKスペシャル「好きなものだけ食べたい~小さな食卓の大きな変化~」より要約引用

◆4 好きなものだけ食べさせている親の考えは……?

さて、好きなものだけ食べさせている親は、そのあたりをどう考えているのでしょうか。

NHKでは、実際にいくつかの自宅を訪問していました。

例えば、バスケットボールをしている5年生男子の自宅である。
冷蔵庫は、冷凍食品でいっぱい。それに大好きなインスタントラーメン、そして缶ジュースがいっぱい保管してあった。缶ジュースなども特にルールはなく、好きなとき食べたり飲んだりできるといいます。

その日は、その子は冷凍食品の豚丼でしたが、何とその子は食べる前にタマネギを全部取り去り、肉だけにしてから食べたのでした。

その母親は、「自然に好き嫌いがなくなるまで、時間をかけて見守ろうと考えています」と言っていました。

母親「今の時点では、スポーツを結構やったりとか、体を使うことが多いから、肉類が好きなのじゃないかなあと思うんですよ。また、これが成長した中で食べるようになるんじゃないかなーと思っているので、そんなに神経質になって子どもに……」(インタビューがとぎれる。)

今、子どもの体が悲鳴を上げています。その主な原因は、間違いなくこのような親の姿勢でしょう。
自然に好き嫌いがなくなるまで待つという姿勢は、「放置」に他ならないと思うのです。

◆5 親はどうあるべきか?!

■まず第一に、親は強くなければならないと思います。子どもに泣かれたり、けんかになったりするのはできるだけさけたいという気持ちは、同じ親として理解できます。
しかし、生活習慣病を予防し子どもの健康な体をつくるということ。そのために、よき食習慣をつくるという責任は、「ストレスになるから」というようなある意味甘い感情のはるか上に位置しているのではないでしょうか。

その上で、ブログ記事『発達障害にありがちな偏食をなおす』に書いたように、親が決意をもって粘り強く指導していけば、ほとんどの場合、偏食は改善・克服できるものです。
言葉はキツイかもしれませんが、「自然に好き嫌いがなくなるまで見守る」というのは、形を変えた「放置」であって、これでは偏食の改善はまず無理でしょう。

■第二に、親は、かしこくなければならないと思います。バランスの取れた食事をとることの重要性「好きなものだけ食」の危険性を深く理解していなければなりません。その認識があって、はじめて「偏食をなおさなければ、何とかしなければ……」という強さが生まれるからです。

例えば、わが家では、マーガリンではなくバターにしています。15年以上前からです。
理由は、杏林予防医学研究所所長の山田豊文著『細胞から元気になる食事』(新潮社1,300円)を読んでその弊害を知ったからです。同書の76-80ppまでの「とにかくマーガリンをやめよう」に詳しく書いてあります。

この山田氏の食事のアドバイスで体調がよくなり、復活したプロ野球選手などたくさんいます。食育を考える場合、この本はオススメの一冊ですね。

先の親にしても、専門の分析機関が自分の家庭の食事の栄養バランスなどを分析した結果を見て、これではまずいと思い、子どもと一緒にタマネギ入りのコロッケをつくり、食べさせるのに成功していました。つまり、この辺りの認識が変われば、親は変わるのです。どんな親だって、わが子を健康にしたいですものね。

■子どもたちが野菜を育てる取り組み
このNHKスペシャルの終末には、高知県南国市の後免野田小学校自分たちで米や野菜(26種類)を育てて、それらを給食の食材に使うことで、野菜をほとんど残さず食べている子どもたちが紹介されていました。

一つの有効な方法ではあります。

小学校の教員として私も学級園で枝豆、トマト、なす、ピーマン、スイカ、トウモロコシ、ニンジン、サツマイモを育てたことがあります。しかし、私の経験からすると、野菜嫌いに既に育っている子どもには、あまり効果は望めないと思います。
それに、26種類もの野菜を、全校をあげて栽培しているという学校は多くないはずです。
それよりも、今の状態でも、きちんとやっている家庭はきちんとしているのす。 

食育モデル校として食育を推進してきた本城小学校が、学校だけの努力だけでは限界があるとして、実施したこの実態調査。
学校ももちろん努力すべきでしょうが、基本は家庭であって家庭こそ努力すべきでしょう。

■食育モデル校ですら貧困な食事が30%も
本城小学校のデータによれば、朝食は、主食・飲み物・デザート(1年男子ロールケーキと牛乳、2年男子コンビニの肉まん一つ、3年男子チョコバナナ、6年男子ヨーグルトだけ……)だけが何と30%もあったといいます。教師たちの予想を超えたものでした。
恐ろしい数字です。食育モデル校ですらこうです。通常の学校は、さらに高いのではないでしょうか。

◆6 大変な子ども受難の時代

栄養バランスの劣った食事を食べ、落ち着きのない集中力を欠いたたくさんの子どもたちを相手に、教師たちはまず席に着かせ、様々な工夫をして興味を喚起し、集中力の必要な学習を促します。

「好きなものだけ与えておけば、トラブルなく満足するだろう」と、子どもたちは、栄養のバランスを欠いた好きなものだけ与えられ、結果として生活習慣病をはじめ肥満あるいはやせ、便秘、老化現象、体力の低下、イライラし集中できない……様々な苦痛を味わっています。将来、様々な病気で死ぬリスクをも高められています。これが子どもの受難の時代でなくて何でしょう。

親だってこのストレス社会、格差社会の中で、仕事が忙しく時間的なゆとりもお金もない家庭が多くなっているのかもしれません。(本記事のメインのテーマでないので省く。)

しかし、親がしっかりすることが柱となる解決策でしょう。

家庭こそが食生活の中心であり、家庭で親が作った(用意した)食事を、子どもは食べているのですから

番組の終わりに、偏食をなくすために1週間の入院プログラムを受けた男の子がこう言っていました。

「今度からちょっとでも野菜を食べるようにしようと思う。お母さんが作ってくれれば。」と。

*関連記事

では、いったいどうしたらいいのか!? 対処法は、下の記事にあります。

ブログ記事『発達障害にありがちな偏食をなおす』

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