いじめの問題が深刻化して久しいです。いじめによって自殺する子どもがいることを考えれば、わが子へのいじめは、親にとって一大事です。
特別支援学級に在籍する子どもは、その発達障害が故の反応 ー過度に反応したり逆にからかわれていることがわからなかったりー が面白かったり、いじめられていることを親や教師にうまく言えなかったりして、いじめのターゲットになりやすいとも言えます。
◉発達障害をもつ、わが子をいじめから守るにはどうしたらいいでしょうか。
まずはその事実に気づくこと、気づいたら具体的に動くことです。
では、もし親がわが子へのいじめに気づいたとしたら、具体的にどう動いたらいいのでしょうか。
次に紹介するのは、わが子へのいじめに気づいた父親が学校に報告したことから、いじめ解決の道がスタートした事例です。
(2007年3月)
いじめ解決への道!
◆1 保護者からいじめの訴え
3月1日(木)朝8時頃、いつものように特別支援教室へ行き、AさんとAさんのお母さんにあいさつをしました。
そして、Aさんの連絡帳を見ると、2月26日(月)の夕方、学校の近くの公園で遊んでいたところ、○年生のXさんに「△」という悪口を言われ、すごく傷ついたことが書かれてありました。
「許せない!」とも書いてあり、記述に親の怒りの波動を強く感じました。
私は何回もじっくりと読み、いくつかお母さんに質問をしました。そして、
私「これは、ほうっておけませんね。すぐに対応します。」
こう言って、教務室へ行き、連絡帳の記述を2枚コピーして校長と教頭に渡しました。そして、
私「○年生のXさんをお昼休みに呼んで、私が指導します。」
と言いました。
結局、「大事なことなので、お昼休みまで待たずにすぐに指導した方がよい」ということになり、学級朝会終了後、即対応することになったのです。
◆2 いじめへの対応開始
6年生全体に聞いたところ、関係する児童は4名いました。
校長の指導で、養護教諭・教務主任・教頭・校長の4名がそれぞれ4名の児童に一人ずつついて、個別に事情を聞きました。
たまたまこの日は、6年生担任がお休みの日だったのです。
4名のうち1名は、関係がないことが分かり、残りの3名について昼休みにまた事情を聞きました。3人の話の食い違いを問う形で事情を聞き、3人とも「△」という悪口を月曜日の夕方Aさんに言ったことが確認できました。当然、厳しく指導することとなりました。
ただ、連絡帳に書かれたことと一部食い違いも生じていました。
そこで、保護者にーできれば父母が一緒にー夕方来ていただくこととなりました。
◆3 来校された保護者
5時30分頃、Aさんのお父さんとお母さんが一緒に来られました。
学校側から校長、教頭、そして私の3名が対応しました。
まず、教頭が今日一日の学校での取り組みを説明しました。
月曜日の夕方、3人とも「△」という悪口を確かに言ったこと。その上で、厳しく指導したことです。
そして、お父さんの話と食い違っている部分について、話を進めました。
ここで、具体的な悪口の中味や指導の詳細はこれ以上書けないのです。守秘義務があるからです。
父親(母親も)は、今回の悪口の件は学校に報告したものかどうか迷ったといいます。
・悪口を言った相手の一人は、登校の際、我が子の面倒をずっと見てくれた相手であること。おそらくは親が「ちゃんと面倒見てやれよ。」と言ったからで、それがこんなことになると、「ちぃっちゃいことぐだぐだ言って! 世話してやってんのに。」となると困る。それに、近所なので、ぎくしゃくすると困ること。
・そんなこともあって、「ほうっておいた方がいいか。」と迷った。でも、この先を考えてみると、こんなところでラインを引いて、我が子にがまんさせるのではだめだと思った。
こう決心して、連絡帳に事実を書いて知らせたのだそうです。
最後に、私は休み時間も含めて、Aさんといつも一緒にいるので、しっかりと守っていくことを話しました。
一番最後に、校長は、次のような話を保護者にしました。
①三人の子たちの言葉(悪口)の背後にあるものは、絶対に許せないこと。
②それで、朝のうちに一人ずつ教師が付いて、月曜日の件を突破口にして話を聞いたこと。
③事実を知らせてくれてありがたいこと。おかげで、早めに手を打つことができ、問題が大きくならないうちに対応できること。
④「三人の子たちを今直さないと大変」という気持ちで、その子たちの家にも当たっていくこと。また、「近所なのにぎくしゃくするのでは」と心配されなくてもよいこと。
⑤今回に限らず、気になることがあったらすぐに学校に連絡が欲しいこと。全校体制で真剣に対応すること。
⑥よくないところは、子どもたちにしっかりと見つめさせて、次(中学校)に送り出したいこと。
◆4 涙ながらに謝りの手紙を読む子どもたち
さて、翌日。3月2日(金)のことです。
3人の子たちは、1限2限と別々に校長、教頭、教務主任の先生たちに呼ばれた。
そして、Aさんのお父さんの話との食い違っていることなどさらに話を聞かれ、かつ指導があった。
結局、謝りの手紙を書き、終会時にAさんに渡すことになりました。
Aさんが下校する直前に3人の子たちが、学級終会後の特別支援教室に現れ、涙ながらに謝りの手紙を読んでいました。
教室のすぐ後ろでは、Aさんを迎えに来ていたお母さんが目に涙を浮かべながら、その様子を見ていました。
お母さん「ありがとう。でも、君たちにも(先生に叱られて)いやな思いをさせて悪かったわね。」
こう言っていました。
3人の子たちの担任は、おかげで3人の子たちをしっかりと指導できてよかったと言っていました。
帰り際、Aさんのお母さんは、感謝の言葉と共に、私に(Aさんの担任)次のように言いました。
「わけのわからないようなことを言ったり、(通常の子に比べて)いろいろな面でできない子だから、どうしても悪口を言われてしまうのでしょうね。」
私「それは違うでしょう。いろいろできない子だとしたら、それを分かってむしろ温かく支えてあげるべきでしょう。今回の指導は、あの3人の子たちにとっても、よかったと思いますよ。」
こうして、悪口の一件は一応の解決をみた。
◆5 わが子へのいじめを決して看過しないという父親の決意!
さて、今回書きたかったことは、悪口(いじめ)への学校側の対応ではありません。
解決に向けた学校側の対応が、どうしてスタートしたかという点です。
これは、迷った末に、「こんなところでラインを引いて、(これから先ずっと)我が子にがまんさせるのではだめだ!」と父親が決心し、学校側に知らせたからスタートしたのです。
悪口に限らず、いじめの解決にはいじめの事実をいち早くキャッチすることです。
なぜなら、いじめの事実を把握していなければ、指導がスタートしないからです。
それには、我が子の様子を普段からしっかりと見ていること。そして、いじめの事実を把握したら、すぐに学校側に知らせることです。
それには、今回の父親のように、我が子への悪口(いじめ)を決して看過しないという強い決意も時には必要になると、この一件は教えているように思います。
◆6 いじめた側の教育も大切・いじめかどうかの判断の難しさ
■いじめとイソップ童話
いじめに関連して、今ふと思い出すのは、次のイソップ童話です。
いたずらな男の子たちが、池にすむカエルに向かって石を投げています。
カエルは真剣な面持ちで、
「止めてください! あなたは遊びのつもりでも、私には生死にかかわることなんです!」
と訴えています。
こんなお話です。
悪口を含め、いじめは相手を傷つけます。そのやっていることの意味をしっかりとわからせることは、きわめて大切だと思います。
弱いから劣っているから、いじめるということは、品性の劣る下劣な行為であり、本当に強い人というのは、逆にかばったり支えたりするものだということをしっかりと教える必要があると思います。
そう言う意味でも、いじめた側への教育は、とっても大切です。
■その行為は「いじめ」か「いじめ」じゃないかの判断も難しい
さて、いじめかどうかの判断も難しい点があります。
先日、妻がこんな話を聞きました。
長女がグランドで「Aちゃんが来たぞ!逃げろ!」と言っていたと、うわさになっていると、あるお母さんが伝えてくれたのです。
その頃のAちゃんは、誰にでもキスしていて、「またキスされる」ということで、逃げたらしいのですね。去年の話で、本人も忘れていました。
しかし、その場面を見ていたあるお母さんは、いじめが全国的に問題になっており、ぴりぴりしていた時期でもあり、何よりもそんな背景は知りませんから、「ん!」となったのでしょう。
こんなことからも分かるように、事実関係をしっかりと把握することも、大切です。
いじめについて、書き出すときりがありません。
我が子がいじめられることも、いじめることも嫌ですね。しっかりと守っていきたいと思います。 (2007年3月)
[…] ・親の覚悟が発達障害をもつ、わが子をいじめから救う […]