浜松医科大学児童青年期精神医学講座特任教授で『発達障害の子どもたち』の著者、杉山登志郎氏は、療育の基本的指導内容として次の6つをあげています。
1健康な生活
2養育者との信頼と愛着の形成
3遊びを通しての自己表現運動
4基本的な身辺自立。
5コミュニケーション能力の確立
6集団行動における基本的なルール
杉山氏「重症児、軽症児どちらにも適用できる、領域の基本的内容に関してまとめた。
上の表に掲げた順序はそのまま優先順位を表している。
つまり、健康な生活の確立は他の何よりも優先順位が高く、身辺の自立はコミュニケーションの確立よりも優先される」(181p.)
では、トップに位置付けられている「健康な生活」とはなんでしょうか?
杉山氏「まず、健康な生活の基本は養生である。
古来のどのような養生訓を見ても、その基本は変わらない。早寝早起きを基本としたきちんとした日内リズム、適度な栄養、適度な運動である。ADHDのI君のところで述べたように、この改善だけで著しく行動が落ち着く児童はまれではない」(前掲書181p.)
健康な生活の基本である「適正な睡眠時間」の確保ー裏を返すと「夜ふかし」の問題ーについて深く考えていきます。
◆1 夜ふかしの現状とその悪影響
○親「さとる(小5)、もう10時よ。寝る時間よ。」
さとる「TV見たいもん。」
親「しょうがないわね~。」
かくて、さとる君の就寝時間は11時過ぎになりました。
そして、翌日。
親「さとる、起きなさい。学校でしょ。」
さとる「まだ、ねむいよ~。」
それでも、さとる君は菓子パン一つと野菜ジュースをなんとか口に入れて、登校時間にぎりぎりで間に合いました。しかし、さとる君はあくびを連発して学習になかなか集中できません。おまけに、何となくイライラしているさとる君は、昼休みに友達と大げんかまでしてしまいました。
「夜更かしで遅刻。登校してもあくびの連発で学習に集中できない。イライラして対人関係でトラブルを起こしがち……。」など、夜更かし(睡眠時間の不足)による悪影響は、日々教師として実感しています。
親は、「しょうがないわね~。」と許しているようですが、夜ふかしによる悪影響には、意外に大きいのです。
東京ベイ・浦安市川医療センターCEOで『子どもの睡眠』(芽ばえ社)の著者であるの神山潤氏は、「夜ふかしの6つもの害」を指摘しています。
①睡眠不足:ステロイドホルモンの夕方の減りが悪くなり、肥満をまねく
②心身の成長を妨げる:寝ている間に分泌される成長ホルモンの働きが悪くなる
③生体リズムの乱れ:疲労しやすくなり、食欲や集中力が低下する
④イライラするなど、感情コントロールが困難になる
⑤食習慣の不健全化:肥満や体調不良を起こす。朝食抜きになりやすく、肥満になりやすくなる
⑥メラトニンの分泌が減少する:老化促進・ガン化促進
※メラトニンは夜暗くなると出てくるホルモン。それは、①眠気を起こし、酸素の毒性から体を守る ②老化防止や抗ガン作用がある ③性的な成熟の抑制作用がある
※メラトニンは夜暗くなると出てくるホルモン。それは、①眠気を起こし、酸素の毒性から体を守る ②老化防止や抗ガン作用がある ③性的な成熟の抑制作用がある
(神山潤『子どもの睡眠』6-11ppの要約引用)
上の③・④については、学校で授業をしていて、顕著に感じることです。
ある児童があくびを連発し、落ち着かず、集中力のない日については、その旨を連絡帳に書くと、ほぼ決まって前日夜ふかしをしていました。ぴたりと当たったのです(保護者からの返信で確認できました)。
「ぼーっとしていて、学習に集中できない。イライラしてキレやすくなる……」これでは、学習に大きな支障をきたしますし、友達とのトラブルが増え、対人関係にも問題が生じます。
最も効果的な対策は、十分な睡眠をとらせることです。学校で教師が「学習に集中しなさい。仲よくしなさい」とくり返し話すよりも、何倍も効果があるでしょう。子どもは、すでに学習に集中することや仲よくすることの大切さは、それこそ耳にたこができるくらい聞いているのです。本当の原因は、「集中したくてもできない。イライラしてしまう」ということなのです。
子どもと大人とでは、必要な睡眠時間がそもそも違います。学校で「学習に集中してほしい」「友達と仲よくしてほしい」「しっかり朝食を食べてほしい」……のだったら、子どもの夜ふかしをやめさせて、十分な睡眠時間を確保してあげる必要があるのです。
◆2 必要な睡眠時間はどれくらいか?!
つまり、「早寝・早起き・朝ごはん」の話ね、という方もいるでしょう。
しかし、この程度の認識で終わってほしくないのです。たとえば、「早寝」といっても、「わが家は10時就寝で十分に早い」と考えている親もいれば、「わが家は10時就寝では遅すぎる。何とかしなければ……」と考えている親もいるからです。
実際のところ、どれくらいの睡眠時間が必要なのでしょうか。
浜松医科大学児童青年期精神医学講座特任教授の杉山登志郎氏は、ある講座の中で参加者からの質問に対して、「小学校段階では9時間から10時間の睡眠が必要です」と答えています。低学年児童の方が高学年児童の方より睡眠時間が多く必要なので、幅があるのです。
私の前勤務校は、児童数300名ほどの小学校でしたが、
・低学年児童は9時までに就寝、
・中学年児童は9時30分、
・高学年児童は10時就寝が「学校のきまり」として保護者に提示していました。
このように、10時就寝で7時起床ならば、高学年児童でも9時間の睡眠を確保できるわけです。就学前の幼児は、8時までに就寝し、10時間以上の睡眠は必要でしょう。つまり、小学校1年生で10時就寝となれば、「早寝」どころか明らかに「夜ふかし」であり、これまで述べてきた弊害が生じるということなのです。
「早寝・早起き・朝ごはん」のスローガンが実効性をもつには、「小学校低学年児童は9時までに就寝~」のように具体的に書きかえられる必要があります。
◆3 睡眠の役割
「夜ふかしがよくないのはわかるけど、子どもが言うことを聞かなくて……。」
(テレビ・ゲーム機・スマホに夢中)
「仕事で帰宅が遅いから、やむを得ないんだよね……」
という親御さんもいることでしょう。
くり返しになりますが、大人と子どもは必要な睡眠時間が違います。「寝る子は育つ」といいますが、寝ている間に成長ホルモンが分泌され、体は成長します。睡眠によって、体は休養し、心はやすらぎ、記憶は再構成され、心身共にリセットされます。睡眠には、大切な役割があるのです。子どもの小さいときから生活のリズムを整え、必要な睡眠時間を確保するのは、親の責任でしょう。
20年前、10年前に比べて、特に発達障害のない子についても、教室で落ち着きのない子ども、学習に集中できない子どもがとても増えていることを、多くの教師は実感しています。その大きな原因の一つに睡眠不足があるのです。
にわかに信じがたいことですが、先に紹介した神山潤氏は「今や日本では半分以上の3歳児が夜10時を過ぎても起きています。こんなことをしている国は世界中で日本だけです」とコメントしています。はっきり言って異常事態なのです。
◆4 早寝の習慣を身につけさせるには?
では、どのようにして早寝・早起きの習慣を身につけさせたらよいのでしょうか。
一つには、「寝る直前(就寝30分前)には脳を興奮させるような活動ーテレビ・ゲーム機・スマホ(インターネット)等ーは避けることです。なぜなら、眠る直前まで過剰な光や音にさらされていると、深い眠りがさまたげられると言われているからです。
もう一つは、「入眠の儀式」があるといいのです。たとえば、「ぬるめのお風呂に入って、パジャマに着替え、歯を磨いたら、ふとんに入る」という手順(入眠の儀式)を決めておくのです。お風呂に入った段階で体の方で「いよいよ睡眠だ。寝る準備に入ろう」となり、スムーズに眠りに入ることができるでしょう。
最後には、親が睡眠の重要性を認識して「必ずやる!」と決意することでしょう。これが一番大切です。
子どもが理解できる年齢なら、睡眠の意味や価値を子どもに話して聞かせることも有効でしょう。
子どもが健康に成長するために、睡眠は重要です。
子どもが小学校低学年ぐらいまでなら、親の言うことを比較的素直に受け入れるので、親の決意しだいで必ずできます。
(以上、拙著『うちの子、どうして言うこと聞かないの!と思ったら読む本』コラム⑤より引用)
◆5 終わりに
発達障害をもつ子どもにとって、睡眠時間の確保は療育の基本中の基本です。
一方、子どもがテレビ・ゲーム機・スマホ・YouTubeにハマること等によって、その確保は最も困難な課題となっています。
次に紹介する子育てプログラムは、個々の実態に応じながら、スモールステップで問題の解決をサポートしていきます。
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