発達障害専門の学習塾での実践シリーズ①
私は現在、発達障害をもつ子ども専門の学習塾を開いています。
小学生ばかり3名が在塾しているのですが、3名とも学校を休んだ日すら塾に来るぐらい、喜んで塾に来ています。
そこでのさまざまな工夫、専門家としての子どもとの接し方や考え方を紹介していきます。
◆1 子どもの実態をつかむ ー 個別相談&診断から ー
学級担任や母親(子どもと一緒に登校している)の証言によれば、
「教科書や絵本の読み聞かせは聞くことができるけれど、普段は音読が苦手でやろうとしない」
とのことでした。
医師の診断(わずか数週間前のもの)にも、
「♯3限局性学習症(読み書き障害の疑い)…〜読み書き障害があるようです。多分、まだひらがなの文字と音の変換が自動化されておらず、拗促音やカタカナは未習得の部分があるとみられます…」
と書いてありました。
◆2 興味の持てそうな絵本の選択
ならば、どうするか。
できるところからスタートが原則ですから、興味の持てそうな絵本を選び、その読み聞かせからスタートすることにしました。
絵本選びの視点は、発達段階に合っているということと、興味に合っているということの通常二つです。
発達障害をもっている場合は、それに発達障害・特性に合わせることが加わります。
この子の場合、「♯2注意欠如多動症」という診断も付いているので、ワーキングメモリーが少なく集中力が続かないことが
予想され、長い文、長いお話では集中が続かないでしょう。
この点は、小学校2年生という発達段階から言っても、そうでしょう。
さらに、絵が多くて、一文が短いことも重要です。そうしないと、子どもの中に入っていきません。
というわけで、このような条件をクリアーする絵本として、色々と迷った末に選んだ絵本が、
●馬場のぼる『ぶたたぬききつねねこ』(こぐま社)
でした。
●おひさま→まど→どあ→あほうどり・・・と続いていくしりとり絵本です。
短い単語と絵がセットになっているので、ちょうどフラッシュカードのようでもあります。
「・・・まく→くりすます」で終わりのですが、そのまましりとりを続けて楽しむこともできます。
言葉を発する力や語彙力を見ることもできます。
◆3 体験学習での初めての「音読」
体験学習の冒頭、『ぶたたぬききつねねこ』の読み聞かせからスタートしました。
私「おひさま→まど→どあ→あほうどり・・・まく→くりすます」で終わったところで、しりとりのスタート。
私「クリスマスの「す」で終わったよね。しりとりを続けられるかな。」
旭(仮名)くん「すいか」 私「からす」 旭くん「すし」 私「しりとり」 旭くん「りす」・・・
途中「白いくま」のような言葉もありましたが、OKにしてどんどん続けました。
最後に私が「みかん」と「ん」で終わる言葉を言い、私が負けて終わりました。
絵本の言葉は短いのでテンポがよく、旭くんは集中して聞いていました。
続きのしりとりも、意欲的に取り組みました。
ひらがなは読めること、ある程度は語彙があることがわかりました。
ここまで、6、7分の学習です。(後の学習は割愛)
さて、翌週、正式に塾に入ることになった旭くん。
スタートはまた、『ぶたたぬききつねねこ』の読み聞かせです。
今度は、次のページに進む前に、続きの言葉を予想させながら、読み聞かせました。
1週間前に一度聞いただけなのに、結構次のしりとり言葉を予想し当てていました。
その後も、しりとりを交互に言い合って楽しみました。
◆4 交互に音読クリアー!
さて、3回目(1週間に1回の塾なので、3週目)。
絵本『ぶたたぬききつねねこ』を使って、初めての音読です。
まずは、私から「おひさま」と音読して、旭くんに次の「まど」を音読するように促しました。
旭くんが「まど」と音読すると、私が「どあ」と続けて音読します。
すると旭くんが「あほうどり」と音読します。
このように、交互に音読していって、最後は、旭くん「まく」、私「くりすます」で終わりました。
次は、順番を交代して、旭くん「おひさま」、私「まど」、旭くん「どあ」…というように交代で音読していきます。
つまり、2周すると、ちょうど1回全部通して音読できたことになるわけです。
旭くんは、3回目にして絵本『ぶたたぬききつねねこ』を音読できました。
母親「苦手なこと・嫌なことをやらせようとすると怒ってしない」
このように、体験学習に先立つ個別懇談で話していました。
音読が苦手な旭くんが、意欲的に音読できたのですから、小さなミラクルですよね💕
◆5 絵本『しりとりのだいすきなおうさま』へ
4回目のスタート時は、新しい絵本『しりとりのだいすきなおうさま』(中村翔子/作 はた こうしろう/絵)を、まず読み
聞かせました。先の絵本『ぶたたぬききつねねこ』を好むならば、この本もハマるはずと予想してからです。
今回の絵本は長い文も結構入っていたのですが、そこは話の筋の面白さがカバーしてくれ、旭くんは興味をもって聞いていました。
表紙の絵を使って、「まり→りんご→らっぱ・・・こけし→しお→おうさま」と交代で音読し合っいました。
5回目のスタート時には、読み聞かせの後、表紙の絵を使って、ひらがなで単語「ごりら」「ぱんつ」「こけし」…を書かせてみました。
「ん」など書けないひらがなもありましたが、かなり書けました。
◆6 絵本『おおきいトンとちいさいポン』で音読成功!
6回目のスタート時には、絵本『おおきいトンとちいさいポン』を読み聞かせました。
短い文でテンポよく構成されていて、集中が途切れることなく、旭くんは興味を持って聞いていました。
そして7回目のスタート時には、おおきいトン役を私が、ちいさいポン役を旭くんがやることにして、交互に音読しました。
今度は、役を交代して音読しようと思ったら、
旭くん「一人で全部読む。」
こう言って、一人で全部音読してしまったのです。
絵本『ぶたたぬききつねねこ』の場合は、単語でしたが、今度は短いけれども文です。
「おおきいのは いいなあ。」
「ちいさいのは いいなあ。」・・・というように。
短い文の音読、それも一冊全部。クリアーできた旭くんでした。
以上、音読が苦手で嫌いな旭くんが、しりとり単語・短い文でできた絵本を一冊音読できるようになったというミラクルの紹介でした。
◆7 うまくいった理由
ここで音読がうまくいった理由を二つにまとめてみます。
◉一つ目は、音読する絵本の選択が成功したことです。正直これが7割だと思います。
①発達段階(年齢的なもの)、
②発達障害・特性(ワークングメモリーなどの能力的なもの)、
③興味(生活体験・好みに関係するもの)
に合った絵本で合ったこと。
具体的に言えば、『ぶたたぬききつねねこ』・『しりとりのだいすきなおうさま』・『おおきいトンとちいさいポン』の選択
がよかったのです。
2年生という発達段階や、発達障害から言っても、絵がたくさんで、「短い単語や短い文でテンポよく進む」のがいいのです。
◉二つ目は、読み聞かせの仕方(平たく言えば、それらしく読む)・短い単語の絵本から短い文の絵本までつまり平易なもの
から少し難しいものへ、読み聞かせから交互読み・一人読みへとステップバイステップで進んだのもよかったのでしょうね。
◆8 「読み聞かせ」には本好きに育てる絶大な効果も
音読できるようになるには、先の①・②・③の条件を満たした絵本を用意することが最大のポイントだと書きました。
その上で、まずはお手本読みとなる、親や教師による音読=読み聞かせがポイントになるわけです。
声優という職業があるくらいですから、それらしく上手に音読することは大切なポイントの一つです。
詳しくは、下の動画をご覧ください。
[…] ・音読したがらない子が自分から音読する子に変わった! […]